婚約破棄されたので、好きにすることにした。

 入口には執事らしき男性と、複数の侍女が馬車の到着を待っていた。
 エーリヒに会えるまではおとなしくしていようと、クロエは素直に馬車を降り、彼らに案内されるまま屋敷の中に入る。
 トリッドも、このまま同行するようだ。
(やっぱり、マードレット公爵家なのね)
 さりげなく周囲を見渡し、門前や止まっていた馬車の紋章を見て確信する。
 エーリヒとクロエにトリッドを通して接触しようとしていたのは、王太子の婚約者で、マードレット公爵家の令嬢、アリーシャだ。
 案内されたのは客間の一室で、そこにはクロエと同じ年頃の女性が待っていた。
 彼女が、そのアリーシャだろう。
 流れるようなカーブを描く金色の髪。白い肌。そして、青い瞳。
 しかも繊細で美しい人形のように整った容姿に、身に着けているドレスも最高級のものだ。
 貴族が絶対的存在であるこの国でも、王族に次いで身分の高い女性である。
(このひとが、この国の次期王妃になるのね……)
 王太子の異母弟であるキリフと婚約していたクロエだったが、彼女や王太子と話したことはない。ただ夜会などに参加したとき、遠目で見たことがあるだけだ。