婚約破棄されたので、好きにすることにした。

 優美な外見をしているが、それでも彼は元騎士だ。クロエひとりを抱きかかえるくらい、何でもないのだろう。
 ゆっくりと、揺らさないように歩いてくれる。
 まるで壊れやすいガラス細工のように大切に運ばれて、胸が熱くなるような、何だか泣きたくなるような、自分でもどうしたらいいのかわからない気持ちになる。
「クロエ、ついたよ」
 そう言われて、はっと我に返る。
「うん。エーリヒ、ありがとう」
 下して、と言ったら、わざわざギルド内に設置してある椅子に座らせてくれた。
「魔石を、納品しないと」
 顔を隠したまま、弱々しい声でそう言うと、受付から心配そうな声が聞こえた。
「クロエか? 体調が悪いらしいが、大丈夫か?」
 ロジェの声だ。
 エーリヒはサージェがいる魔法ギルドではなく、冒険者ギルドに連れてきてくれたようだ。
 たしかに受けた依頼は、どちらで納品しても構わないことになっている。
 クロエもこちらの方が、都合がよかった。
 心配してくれた彼に礼を言って、クロエは魔石を取り出す。
「ごめんなさい。これしか作れなくて。もう依頼は期限切れになってしまうので、違約金を……」