婚約破棄されたので、好きにすることにした。

 そう聞いていたクロエだったが、いざ足を踏み入れてみると、思っていたよりも子どもが多いことに気が付いた。
 ここで生まれ育った子どもなのか。それとも、親を亡くしてスラムで生きるしかなかったのか。
「ねえ、エーリヒ。薬の届け先の教会って、もしかして身寄りのない子どもがいたりする?」
 小声でそう尋ねると、彼は頷いた。
「ああ。そんな子ども達を集めて、面倒を見ている人がいるらしい」
「そうなんだ……」
 この国を出ることばかり考えていたクロエは、ふと考える。
 あの父と元婚約者を始めとした横暴な貴族たちを、このままにしておいていいのか。
 放置していたら、また新たな犠牲者が出るだけではないか。
 ここに住んでいる子ども達のように、自力では抜け出すことのできない人達を放っておいて、本当にいいのだろうか。
 日中なのに薄暗いのは、日当たりが悪いからだろう。
 高い城壁は、平等に降り注ぐはずの太陽の光さえ遮っている。
 湿った路地に、人が座り込んでいるのが見えた。暗い目をした彼らは、ほとんど移民のようだが、中にはこの国の者もいるようだ。