婚約破棄されたので、好きにすることにした。

「そう。私の前世は、こことは違う世界で生きていた人間だったの。その世界では女性も自立してひとりで働いているし、結婚しない人も普通にいたわ。そのときの価値観が混じってしまって、以前のクロエとは違う感じになってしまったのかもしれない」
「違う世界……。もしかしてクロエが作ってくれた料理って、その世界のものだったりする?」
「そう。私の故郷の味だったの。思い出したら懐かしくなって……。だから今の私は、エーリヒが愛してくれたクロエとは、少し違うかもしれない」
 拒絶されるかもしれない恐怖を乗り越えて、ようやく打ち明ける。
「こんな話、信じてくれる?」
「クロエ」
 エーリヒは、そんなクロエの名を優しく呼んだ。
「もちろん信じるよ。それに、心配しなくてもどちらもクロエだ。その本質は変わらない」
「……本当に?」
「ああ。ずっとクロエを見てきたと言っただろう? もし本当に別人になってしまったら、俺にはわかる」
 ずっと不安だった。
 本当の自分はどちらなのか。
 ただ『橘美紗』がクロエに憑依しているだけなのか。
 いつかクロエが目覚めたら、自分は消えてしまうのではないかとまで、考えた。