婚約破棄されたので、好きにすることにした。

 そんなクロエの手を、エーリヒは優しく握りしめる。
「なんでも聞くよ。クロエのことなら、どんなことでも知りたい」
「……すごく、変な話で。信じられないかもしれない」
「クロエの言葉なら信じるよ」
 そんな優しい言葉にも、まだ決心がつかなかった。
 エーリヒに嫌われてしまうかもしれない。
 それがこんなにも怖い。
「もしかしたら、私のことが嫌いになってしまうかもしれないわ」
「それだけはない」
「私が、クロエじゃなくても?」
 思い切ってそう言うと、エーリヒは少し驚いた様子を見せたものの、クロエを気遣うように優しく言った。
「もしかして、クロエに昔の記憶がないことか?」
「え……」
「俺はずっと前からクロエを見ていたんだ。昔と少し違うと、わかっていた」
 まさかエーリヒが、そのことに気が付いていたなんて思わなかった。
 クロエは動揺して、視線を彷徨わせる。
「座って話そうか」
 エーリヒはそんなクロエの手を引いて応接間まで行くと、ソファに座らせて自分も隣に座った。
「クロエが記憶をなくしたのは、キリフに婚約破棄をされたときで間違いない?」
「……うん。そうね」