第一章

 胸が痛かった。
 苦しくて、切なくて。このまま死んでしまいたいと思うくらいだった。
 涙が頬を伝って零れ落ちていく。
 手足が震えている。
 とうとう足の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
(何これ……。どうして、こんなことに?)
 絶望が心を埋め尽くしているのに、何を悲しんでいるのか、まったくわからない。
 それでも震える手足に力を入れて、何とか体勢を整えた。
(落ち着いて、ゆっくりと考えてみよう)
 深呼吸をして、それから周囲を見渡してみる。
 美しく着飾った人々が、こちらを遠巻きに見つめていた。
 彼らの反応はさまざまで、ある人は忌まわしそうに、ある人は同情するようにこちらを見つめている。
 そして目の前に、ひとりの男性が立っていた。
 煌めく金色の髪をした、なかなか整った顔立ちの青年だ。夜会にでも参加しているような礼服を着ている。
 見た目だけなら、極上。
 でも彼は、とても冷たい目をしてこちらを見ている。
(私は誰? この状況は、どういうことなの?)
 必死に自分の名前を思い出そうとした。