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サラシでぎゅうぎゅうに抑えた胸。

ショートヘアのウィッグ。


鏡の前で凛々しい顔をつくれば、完璧だった。



「どう、どう?今日も男にしか見えないでしょ」


占領していた洗面所から顔を出して、部屋にいる東雲さんを振り返った。

向こうはすでに準備を終えていて、待ちくたびれたように頬杖をついている。



「全然男に見えねーんだけど」

「それは東雲さんはわたしが女だって知ってるから。バイアスかかってるんですよ」

「バイアスじゃねえよ。お前が女なのは事実だろ」


そっかと納得していると東雲さんが立ち上がった。

クローゼットから何かを取り出したと思えば、それをこっちに向かって投げつけてきたから。



「うわあぶなっ」


危うく顔面で受け止めそうになったわたしは、すんでのところでそれをキャッチする。


それは東雲さんの予備のカーディガンだった。

落ち着いた赤色だったけど、東雲さんが選ばないような色味。