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──統理、恋ちゃんにさよならした?

──してない

──そっか。そうだよね、いきなりだったもんね





その日は雪が酷かった。


祖父母の家の最寄り駅に着いた頃には辺り一面が銀世界になっていた。

時折漏れる息はどこまでも白く、指先もピリピリと痺れるように痛い。





──恋ちゃん、連れていきたかったな



迎えを待っている間、祖父母の車では常に落語が流れているのだと懐かしそうに話していた母親は、ぽつりと唐突にそう呟いた。


"本当は女の子が欲しかった"のだと酔うたびに嘆いていた母親は、最後までれんのことを惜しんでいた。


おそらく、れんが娘ならそのまま置き去りにして行方をくらますこともなかったのだろう。



この怪物の子供がれんではなかったことに安堵しながら、深く呼吸をする。


白い(もや)は寒空に溶けることなく、ただ視界を遮るように広がるだけだった。