ハイドアンドシーク



ブッチさんとやらに会ってみたさ半分、行かなきゃなのかなという義務感半分。

それでもやっぱり殴り合いは怖くて、「僕も行ったほうがいいかな?」なんて尋ねたら。



「お前、喧嘩は?」

「…やったことすらない」

「んじゃ行かなくていい。つーか行くな?足手まといになるだけだから」


チビだし細えし、と付け加えられる。



「……ごめん」

「いやなんでだよ。べつに誰も責めねーよ、んなことで。まあ、西ではちっとキビシーかもだけど。こーゆーの、適当に適材っつーんだろ?」

「適材適所」

「おれも、喧嘩よりあいつらとわいわいゲームやってるほうが好きだし」


さっきからやってるのもなにかのスマホゲームなのかな。

わからないけど、本人はすごく気楽そうだった。



「まだ若干腹もいてーし、おれも今日はパス~」


今のうちにデイリークエ消化すっかぁ、なんて呟いたから。

邪魔しないようにわたしもお昼に戻ろうとしたとき。



「転校生、あー…名前なんだっけ、かしわ天?」

「鹿嶋レン」

「鹿嶋。お前、昼メシ食うの遅すぎな」


ひと呼吸、そして。



「こっち来れば?」

「うん!」

「おい素直かぁ?」


このクラスに来て、初めて。

屈託のない笑顔を惜しむことなく向けられた。