ハイドアンドシーク



「なら最初からそう言えっての」

「ゴメンナサイ」

「お前が、やけに嬉しそうに見せてくるから、……こっちはてっきり…」


肘をついて口を手で隠しているから、なにを言っているのかはよく聞き取れなかった。

けれど、珍しくふて腐れていることだけはわかる。


目が合って、

ふい、と顔を逸らしたその左耳は、依然として空っぽのままだった。



「ね、ピアスつけてもいーい?」

「……、……お好きに」


経緯はどうであれ、わたしは東雲さんのピアス姿がまぁまぁ好きだった。

だって似合ってたし。

このまま塞いでしまうのはちょっともったいないなって思ってた。


お言葉に甘えてピアスを挿しているあいだ、東雲さんの横顔はどこか遠くを見ているようだった。

それはきっとピアスのことでも、わたしのことでもない。



この人はたまに、こういう表情をする。


いうならば、空白だ。

気軽に踏み込むことのできない空白がそこにはあった。




「東雲さん。できましたよ」


呼びかけに、緩慢に向けられた瞳。


きっと東雲さんは気づいてない。

左耳のそれが、どれほど自分に馴染んでいるのかなんて。


在るべきところに収まった、本来の輝きを取り戻したように煌めくピアスに、わたしは一気に自信がなくなってきた。