「今、無理して開けることもねーだろ」
「……でも」
東雲さんはいたって冷静に、言葉を続ける。
「例えば大人になって、耳に穴あける余裕もできて、そんときにれん、」
すぐに「…鹿嶋が」と言い直した東雲さんに、わたしは自分から言い出したくせに胸がズキンと痛んだ。
「鹿嶋が、一番信用できると思ったやつに開けてもらえばいい」
その言葉を頭の中で反芻して、胸の奥へと落として、それからわたしはにへらと笑った。
少しの悲しさと、ようやく決まった覚悟。
「…じゃ、やっぱお願いします」
「俺の話、聞いてたか?」
当たり前だった。
そしてこれから言うこともまた、わたしにとっては当たり前のことだった。
「今までもこれからも、わたしがいちばん信頼してるのは東雲さんだから」
忘れたくない。
形として残しておきたかった。
「あなたがいた証が欲しいんです」
いつか離れることになっても、たとえ独りになったとしても、強く、そう、強く生きていけるように。



