ハイドアンドシーク



「他のピアスは?」

「ない。これも勝手にあけられたやつだし」


自分の耳に穴があこうと何がついていようとどうでもいいので、そのままにしていただけだという。

なんとも東雲さんらしい理由だった。


落としたピアスにも、相手にも。

思い入れのなさそうな口ぶりに薄情だなぁと思う反面、どこかで安心している薄情な自分もいた。


その罪悪感がわたしの視線を地面に向ける。


やっぱり落ちてないのかな。


砂漠の中から砂金を探している気分になっていると、東雲さんが躊躇もなくわたしの手を攫った。



「え、なん、」

「よそ見すんなよ」

「東雲さんも今どっか見てませんでした?」

「……牽制しただけ」

「クンセイ?燻製食べたいの?」



なんかめっちゃ無視された。


わたしは繋がれた手に視線を移す。


恋人繋ぎよりずっと健全な繋ぎ方。

だけど、今までしたことのない繋ぎ方。


うれしくなって手をぶんぶん振ると、「園児の引率してんじゃねーんだわ」って怒られた。




念願のカフェで食べたケーキは今までにない味、というか正直あんまり美味しくなかった。

東雲さんに一口もらったコーヒーも薄くて、これなら毎朝飲んでいるインスタントのほうが美味しい。



それでも、わたしの心は満たされたままだった。