ハイドアンドシーク


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「あれ?」


東雲さんの左耳のピアスがなくなっていた。

それに気付いたのは、お店から出て、前々から気になっていたカフェに向かっているときだった。


慌てたのはわたしだけ。

そこにピアスがあったこともまるで今思いだしたと言わんばかりに、東雲さんは耳に手を持っていく。



「あーどっか落としたな」

「来た道もどってみましょうか」


わたしの記憶違いでなければ。

たしか朝はその耳に光るものがあった気がする。


たぶん街に出てから落としたんだろう。

急いで踵を返そうとすれば、こつんと指で頭を小突かれた。いたい。



「なんでぇ?」

「馬鹿。見つかるわけないだろ」

「う……それはわたしもちょっと思ったけど」


でも、とわたしは口ごもる。

東雲さんにとって大事なものだったんじゃないの?


だってずっと同じピアスだったもん。

東雲さんのいちばん近いところにいるのは、いつだってそのファーストピアスだった。