「いい。勝手に買ったのは俺だし」
「でも、こんな、」
「いいから大人しく奢られとけ」
それに、と東雲さんは続けた。
「俺はもうお前に返しきれないほど貰ってる」
そんなことはなかった。
だって、わたしが東雲さんにあげた物なんてひとつもない。
「ほら、転ぶなよ」
東雲さんが立ち上がってわたしに手を差し出した。
まるでエスコートするようなその仕草は、絵本の中の王子様よりずっとかっこよかった。
「ありがとう。……東雲さん」
せっかくならこの格好に見合うような笑顔を意識したけれど。
目が潤んでしまって、小さな子みたいに、えへへって笑った。



