ハイドアンドシーク




あ、やばい、なんか泣きそう。


ごめんちょっと目にゴミが、と試着室に逃げ込んでカーテンを閉めると外から東雲さんが言った。



「それ、脱がずにちょっと待ってろ」

「へ……?う、うん、わかった」


どうしてだろうとは思ったけど、胸からあふれる感情が涙となってそれどころではなかった。



ふたたび声がかけられたのは、ようやく気持ちも落ち着いてきた頃。

開けると、そこにはさっきの店員さんが立っていた。



「お似合いですね。お客様の白い肌によく映えています」

「あ、ありがとうございます」

「それではお背中、失礼します」

「え?」


ぱちん、と背中側で音がする。

なにか固いものを切ったかのような。



「お靴のサイズは23でよろしかったですか?」

「は、はい」

「なるほど、ぴったりです」

「えっ?」



わけもわからず、おもむろに視線をさ迷わせる。


試着室の外。

わたしの靴があった場所には、白のパンプスが綺麗にかかとを揃えて並んでいた。


そこでようやく状況を。
東雲さんがしてくれたことを理解したわたしに。


ほほ笑みを湛えた店員さんが、なんの含みもない声色でこう言った。



「素敵な彼氏さんですね」