「東雲さん」
「なに」
「…雷、ほんとはちょっと怖い」
親が仕事で家を空けることが多かったわたしは、いわゆる鍵っ子だった。
遊びにも行けない雨の日はとくに憂鬱で。
雷はもちろん、まるでドアを叩かれているように聞こえる雨の窓に当たる音も苦手ではあった。
でも、そんな甘ったれたことを言ってはこの世は生きていけない。わたしみたいにハンディキャップのある人間はなおのこと。
──……でも、この人の前でなら。
なんの前触れもなく抱きついたわたしに東雲さんは一瞬、驚いたように固まった。
けれど、すぐに頭の上に微かな重みが。
「……随分と積極的じゃん」
積極的なのはそっちじゃん、と昼間のことを思い出しながら顔をあげる。
すると思いのほか近く、目と鼻の先に東雲さんの顔があったので慌ててさげた。
「その、さっきほっぺに、その……きっ、キス、してきたじゃないですか」
「したな」
「……なんで、したの」
東雲さんの胸元に顔をうずめたまま問うと少しして、なんでだろうな、と返ってきた。



