ふと腕にかけていたトートバッグに目をやると、中では小さな生き物が熱を帯び、発光していた。

「剣くん……」

 蛇は瞳を閉じ、微動だにせず、集中している。力を発動しているのだ。

 雨が火の勢いを抑えている間に、消防車のサイレンの音が近づいてくる。

 公花は夢中で、大きな力を振り絞ってくれているであろう優しい彼に、強い想いを送った。感謝と応援、そして心配……。

 胸が、どうしようもなくざわめいている。弱っていたはずなのに、自然を操作するようなことをしてしまって、彼の体は大丈夫なのだろうか。

(どうして剣くんは、ここまでしてくれるんだろう――)


 ――野次馬でごった返す通りの向こう。路地の影から騒ぎの様子を眺めている、ふたりの黒服の男たちがいる。

 表情ひとつ動かさず、黙って目配せをしあうと、足音もさせずに速やかに去っていった。