風間隼人が公花に想いを寄せているであろうことは、以前から知っていた。

 不良めいて見えるが、中身は真面目な男で、バスケットや競輪などさまざまなスポーツにおいて優秀な成績を残しているらしく、ただの人間にしては多才な人物だ。とくに趣味の競泳は全国クラスの実力者だという。

(あいつ、名前からして前世は風属性の生き物だろう。鷹だかトンビだか知らないが……それがなんで水陸制覇してるんだ。前世が鳥なら、黙って飛行機でも飛ばして遊んでいればいいものを……)

 腹立たしいが、自分が目を離していた隙に彼女を助けてくれたことには、礼を言わねばならないと思っている。心の中で、ほんのちょぴっとだけ感謝してやらんでもない。

『……公花、今日は右の道を行こう』
「はーい」

 体の負担にならない程度に神通力を張り、危険を察知して避けるように移動する。

 目立たないように隠れてはいるが、よく見れば通学途中、ところどころに黒服の男たちが潜んでいるのがわかった。
 今は、もう公花に対し、無理強いする気はなさそうだが――。

 蛙婆女は公花の存在を知っている。様子を見ているのかもしれないが、このままただの監視だけで済むとは思えない。

 だが、剣のゆくえを探すためだけに、一般人の公花を痛めつけたりするだろうか? ……あいつらなら、やりかねないかもしれない。

 もし相手が本気で動いた場合、今の自分で対抗できるかどうか――。
 組織の手駒になるのは嫌気がさしていたが、場合によっては大人しく従うしかないと考えていた。

「絶対、誰にも見られないようにしてね。学園の皆にまで、爬虫類マニアだと思われたら嫌だもん。わかってる? にょろちゃん!?」

『おい、おまえまでその名で呼ぶんじゃない』