徹底的に他人の振りをするしかない。逃げよう、そうしよう。

 ハムスターは丸っこい体とのんきな性格からどんくさい生き物と思われがちだが、ポジティブな猪突猛進気質。回し車を夜通し回し続けるスタミナと、高速の脚力を合わせ持つ、疲れ知らずの肉体派(自称)なのだ。

「……あの山、そんな名称だったか? 五穀御剣山(ごこくみつるぎやま)だったと思うが……」

「もうチャイムが鳴るから行かないと! それではさようなら!」

 公花は自慢の逃げ足で、廊下から駆け去った。

 自分の教室は目の前だったのに、無駄に校舎を一周するはめになり……。

 教師からは「廊下を走るな!」と怒られるし、着いたときにはホームルームが始まっていて変に注目を集めてしまうしで散々だ。

 そそくさと席についてから周囲をそっと見回してみたが、剣の姿はないようだ。

(よかった、あの人とは別のクラスみたい……)

 ほっと胸を撫で下ろしていると、隣の席にいた優しそうな女の子が、小声で話しかけてくる。

「ふふ、もしかして教室、間違えちゃったの? 私、松下くるみっていうの。同じクラスメイト同士、よろしくね」
「うん、私は日暮公花! こちらこそよろしく!」

 さっそく友達ができそうで、ひと安心。
 だが油断はできない。絶対に、元・天敵とはお近づきにはなりたくない!