他のクラスメイトからも「ハム子!」「ハム子!」と手放しに褒められて、とっても気分がいい。

 なお、ハム子というのは、公花のあだ名である。

 なんの因果か、公花の名前の「公」の字を分解すると、カタカナの「ハム」になる。実は小学生の頃から「ハム子」と呼ばれるのは定番だったのだが、高校生になっても、自然とこの愛称はついてくるらしい。

(くるみちゃんが、「キミちゃん」って正しく呼んでくれるのも嬉しいけどね!)

「キミちゃん、やっぱり陸上部に入ればよかったのにねぇ」
 と、しみじみと呟いたくるみに、
「ん〜、初めはそのつもりだったんだけどね……ははは」
 機嫌を損ねると怖〜い神童の顔を思い出しながら、言葉を濁す。

 すると、周りにいた者たちが、一斉におしゃべりに加わって──。

「テストの点数がドベだったから、部活動を禁止されたってほんと? 蛇ノ目くんに勉強を教えてもらえるなんて羨ましい……」
「いやー驚いた。どんくさハム子にも褒められるところがあったんだな……!」
「人間なにかひとつはいいところを持ってるっていうけど、本当だったんだ! なんだか勇気が湧いてくるな〜」

「……」

 褒められてるんでしょうか、それとも貶されてるんでしょうか……。

 あだ名は嫌ではなかったが、「どんくさい」の形容詞はいただけない。

 だが体育の授業を経て、クラスの皆の自分を見る目が、真に「見なおした」的な光を帯びていることは明らかだ。
 体育祭という舞台でなら、どんくさハム子という汚名をそそぐことができる。

 よーし、ここで大活躍して、学園のヒロインにあたしはなる! ……はずだったのだが。

 その数分後。

「わぁぁああ! 皆、どいてどいてどいて~!」
「きゃあー! キミちゃん、危ない!」
「先生~! ハム子がまたやらかしてます!」
「こらぁ! なにやってる、日暮ぃー!」

「止まれないんです、どうやって下りたら、いいんですかぁ~!?」

 大玉転がしの練習で、どこをどうやったのか大玉の上に乗ってしまった公花は、下りるに下りられず、玉乗りの曲芸を繰り広げていた。