不必要な遠い昔の記憶がよみがえるなど――なにかの綻びとしか思えない。
 物事には終わりがある。
 おそらく、もう剣の体も魂も、限界を迎えようとしているのではないか。

(もし、そうだとすれば──)

 当主の力を裏の世界で活用することで、蛇ノ目家と宗教団体「騰蛇(とうだ)」は繁栄してきた。

 舞い込む祈祷や呪詛の依頼。それは表社会だけの繋がりにとどまらず、裏の政財界、警察権力に至るまで、根深く関係を築いている。
 当主の力がなくなれば、困ることは明白だが――。

「だが、これはチャンスだ」

 側仕えで終わるつもりはない。
 自分とて、数百年生きてきた妖なのだから。

 こんなこともあろうかと、準備は進めてある。御使いの能力を引き継いで、己が一族のトップに立つ――。

 老婆は耳まで裂けるほどに口角を上げ、クツクツと笑った。