しょっぱなのイメージ映像は、いくらか脚色もかかっているが、おおかた合っているはずだ。
 浮き立つような気持ちは、たぶん本当に感じていたはずだから。

(あの頃は、楽しかった、気がするな……)

 思い出した記憶は部分的であって、すべてではない。
 長い時を生きてきた自分は、抱えるには多すぎる過去がある。

 それらは意図することなく忘却の彼方へ流してきたはずなのに、公花と過ごした世の一部の記憶だけ、取り戻せたのはなぜだろう。

 それも、はっきりとわかることは自分が白蛇で、公花がハムスターだったということだけ……前後の記憶は雲の中、だ。
 公花とはその後どう過ごしたのか、どんな別れをしたのかも、おぼろげで思い出せない。

 蛇は一定の寿命を迎えると、古い体を脱ぎ捨てて、新しい生を生きる。

 あれからいくつもの世を渡り、いつしか妖の領域からその上の神域にまで達し、気がついたら四百年以上が経っていた。

 神に通ずる力――神通力を使う者。
 今の自分は、「御使(みつか)い」とも呼ばれる、人とは非なるものだ。

 自分を信仰する、妖の血を引く者たちも現れ、現在では組織化された「蛇ノ目家」の当主として――「蛇ノ目剣」の名で、ここに立っている。

 一方、公花のほうは、前世の記憶は持ち合わせているものの、こちらのような特殊事情はないようだ。普通の人間の女の子であり、無駄に運はいいようだが、特異な能力も、今のところ感じない。

 ただ遠い昔の記憶をなぜか持って生まれてきたのだと、そう本人は言っている。
 それもやはり完全ではなく、こちらと同じく「ほんの一部」のようだ。