詳しく問いただした剣に、黒尾が早口に説明する。

 それによると、この建物の重要な礎である「通し柱」が壊滅的ダメージを受けていて、この神殿全体が、倒壊寸前なのだという。
 今は、数少ない念動力系の能力の持ち主が屋根を支えている状況で、長くはもたないから早くここを脱出してほしいと。

「そういうことは早く言えっ!」

 冷静さをかなぐり捨てた剣が、部下を叱り飛ばす。
 けれど黒尾は実はまだ納得がいかないという風に、首を傾げた。

「だって不思議なんですよ。こないだの白蟻検査でもなんともなかったのに、なんで急に……なぁ?」

 同意を求められた樋熊が、うんうんと頷く。彼もまた、もたらされた情報を信用しきれていない様子で、眉を下げながら言った。

「なんでも、ねずみに齧られたみたいに削られてたって……」

「……ねずみだと?」

 剣が沈黙した。
 ちらりと公花のほうを見る。まさかという目で。

「え?」

「公花。おまえ、ここに来るまでに……どこを通った?」

 それはまぁ、縁の下から入って邪魔な柱はばっさばっさと噛みちぎりながら、どうにかこうにかたどり着いたけど……。

「ん?」

 なんで、全員が公花(こっち)を見ているんだろう。しかも、そんな感情の失せた目で。

 ――ゴゴゴゴゴゴ。

 念動力の持ち主たちの限界がきたのか、建物が唸りを上げ揺れ始めた。

「ひとまず……逃げろ!!!!」

 剣が公花の手を引き、黒尾と樋熊が老婆をかついで、全員はその場から逃げ出した。