「……公花!?」

 小さな玉が浮かび上がらせたものは、檻の中に閉じ込められたハムスターの姿だった。
 水晶玉の中に彼女がいるわけではない。屋敷内のどこかを、遠隔で映し出しているのだ。

「そう、あなたが大切にしているあの子は、我々の手の中にある……。あなたが逆らうなら、あの者に代わりに罰を受けてもらいます」

「貴様……」

 剣の奥歯が、ギリギリと音を出す。
 射殺さんばかりの勢いで相手を睨みつけたが、どこ吹く風だ。公花を人質に取られては、手も足も出ない。

「ご自分の立場がわかりましたね? さぁ、それでは始めましょうか。大丈夫、ただ頭がぼうっとして、気持ちがよくなるだけですからね……。いい香りがするでしょう? あのお香も、呪いの効果を高めてくれる特別製なんですよ」

 蛙婆女は水晶玉を懐にしまうと、呪詛の用意に入った。精神暗示――彼女の得意とする技だ。

 どうする――迷う余裕は与えられなかった。どちらにせよ弱点を握られてしまっては、どうにもならない。

 むせるような香りが、体を包む。紡がれる呪文が耳から流れ込み、やがて意識を押し流していった――。