「遥生と連絡が取れないな。着信に気付かないのかな」

直生は歩きながらスマホの画面を見ている。


遥生が彼女と仲良く歩いていたと聞いたとき、直生に

『大丈夫だから。何かの間違いだから』

そう言ってもらって少し気持ちが落ち着いた。

「直生、さっきはごめんね。なんで涙が出てきたのか分からないの」

「夏芽の涙の理由、本当はもう分かっているんでしょ」

直生には隠し事ができない。

直生は私の気持ちを理解しているんだ。

「直生、私ね。おかしいの。この前遥生からね、好きな人がいるんだって聞いたの。その時ね、胸が苦しくなって」

「遥生が夏芽に好きな人がいるって言ったの? 誰を好きだって?」

「ううん、相手の人のことは聞いてないよ。でもね、遥生はその人のことずっとずっと好きなんだって。遥生はその人のこと想いすぎて苦しいんだって」

「そんな風に遥生が夏芽に言ったんだ。それを聞いて夏芽は苦しくなったんだね。そっか」

真剣に聞いてくれてると思ってた直生が何故か笑っていて。

「ねえ直生! どうして笑ってるの? 私がこんなに悩んでるのに!」

「あはは、夏芽は遥生のことで苦しくなって悩んでるんでしょ。それってさ」

分かってるの。

でも声に出して言ってしまうと、幼馴染として仲良くしていた関係が崩れてしまう。

「直生、もういいの。直生は私の気持ちに気付いているんでしょ。私も自分の気持ちに気付いたの。でも、もう遅いから」

「遅いなんてことないよ、夏芽。夏芽はその気持ちを大切にして。絶対に遥生から離れちゃだめ」

私が一方的に想っているだけなのに、どうして直生はそんな風に言うの。

こんな片想いなんて悲しいだけだよ。

「早く遥生を探し出して何が起こっているのか聞こう。本当のことを聞かないうちから諦めないで、夏芽」

直生は気持ちが沈んで立ち止まっている私の手を引いて歩き出した。