俺は小さなスーツケースを玄関先に出すと、忘れ物がないかもう一度確かめるために部屋に向かった。

俺の部屋に向かう途中にある直生の部屋。

ドアが少しだけ開いていて、何気なく直生の部屋を覗いたんだ。

ベッドは綺麗に整えられていて、机の上には何もない。

昨夜、直生が不要な物を捨てていると言っていたけど、まさかこんなに部屋を綺麗にするなんて。

俺の部屋はこれから数週間留守にすると言うのに、ぐちゃぐちゃだ。

双子なのにこんなにも違うんだな。

忘れ物がないことを確認して玄関まで出ると、夏芽が俺よりも一回りも二回りも大きなスーツケースを持って隣の玄関から出てくるところだった。

「なんだそのスーツケース! 夏芽、何が入ってるんだよ。さすがに大きすぎだろ」

俺は試しに夏芽のスーツケースを持ってみた。

いやいや、重すぎだろう夏芽。

「これでも荷物減らしたの。これよりも少なくはできなかったんだもん」

俺たちのやり取りを見ていた直生が、

「あはは、夏芽はいつも荷物が多いよね。修学旅行の時もそうだったね。僕が空港まで夏芽のスーツケースを持ってあげるよ。カナダに着いたら遥生がちゃんと持ってあげるんだからね」

「ああ、分かってるよ」

電話で呼んでおいたタクシーが到着すると、俺と夏芽はお互いの両親に挨拶をして、タクシーに乗り込んだ。

空港に着くと荷物を空港カウンターに預けて、身軽になった俺たちは空港の中でたくさん写真を撮った。

その殆どの写真は直生がカメラマンで、スマホの中を見ると俺と夏芽の写真ばかり。

夏芽が直生も一緒に写ろうよ、って誘っても直生は首を縦に振らなかったんだ。

考えてみたら俺のスマホの中には直生の写真が殆ど入っていない。

きっと夏芽のスマホにも直生は写っていないんだろう。

俺は直生の隙を見て直生の横顔を写した。

よし、カナダで夏芽が直生シックになったらこの写真を見せてあげよう。

ま、そうならないように俺が夏芽に飽きられるまで一緒にいるけどな。