昭和50年ごろ、ぼくが盲学校へ入学し同時に施設へ預けられたころのことだった。
強烈なホームシックに悩まされていたぼくは毎晩同じ夢を見た。
 闇のような洞窟のような暗い所でぼくはぼんやりとしている。
そこへ見知らぬ男たちが突然現れて呪いのような声を上げながら近付いてくるんだ。 格好は全て武士。
顔だけだったり、体だけだったり、その姿は様々で色が無い。
 「お前が殺したんだ。」 「お前に殺されたんだ。」 そんなことを大声で叫びながら、だんだんと数が増えていく。
その声は次第に大きくなり、無数の男たちがぼくを取り囲んでしまった。
ぼくは動くことも出来なくなってただ怯えるしかなかった。
 友人たちに話すと「金縛りに遭ったんだよ。」と言われるだけでどうすればいいのか分からなかった。
金縛りと言われてしまえば、それはそれで納得できるかもしれないが、どうも腑に落ちない夢だ。

    解釈
 行政の判断で盲学校へ入学し、親の判断で施設に預けられたんです。
「本当ならこんな所には居たくないんだ。」 そんな無意識の叫びが武士の姿を借りて現れたのかもしれない。
 殺す 殺されるというのは情動を外部の力で無理やりに抑え込むこと。
感情とか自己判断ではなく、法律や制度によって家庭から引き離されたぼくの無意識は家庭に帰りたかったのかもしれない。
それが強烈なホームシックとなって表れてもいたのです。

 反対に自分の意思で何かにけじめを付けた時とか、大きく環境が変わるような時には自分の葬式の夢をよく見ますね。
それまで死にたいくらいに悩んでいたのに、自分の葬式の夢を見たら信じられないくらいにすっきりしたという体験はぼくも有りますから。