夕方。窓からは夕陽が差し込んでいる。

優しく扉をノックする音が聞こえる。

きっとお父さんじゃない。あの人だ。

泣き疲れてガンガン痛む重い頭を辛うじて上げ、急いで涙を拭う。

泣いてたなんて気づかれる訳にはいかない。

急いで勉強机に座り返事をする。

「はい・・・」

よかった。涙声にはなっていない。

ガチャ。

「茉璃ちゃ〜ん、ちゃんとお勉強してて偉いわ〜ママ嬉しい!」

そう言って抱きついてくるこの人。

こわばる身体。

「お母さん・・・」

「ふふっ、ママね〜、茉璃ちゃんがお勉強してる姿見るの大好きよ!」

機嫌よさそうな声。

・・・怒ってなさそう?

一瞬安心しかけたその時。

私に回された腕にいきなり力が込められる。

きつすぎて息ができない。

「〜〜〜!」

「ねぇ茉璃ちゃん、パパから聞いたんだけどね〜?」

目の前の人は声色を変えずに続ける。

「お絵かき、してたんですってね〜?」

その途端腕が少し緩められた。

彼女は笑顔のまま、

「ママ、茉璃ちゃんがお絵かき好きだったなんて知らなかったな〜」

そう言ってずいっと顔を近づけてくる。

感情の読めない真っ黒な瞳。

口は笑っているけど目は笑っていない。

「パパと喧嘩しちゃったの〜?パパ怒っちゃったね〜?」

「でもね〜?パパだってなにも茉璃ちゃんをいじめたくてこんなことしてる訳じゃないのよ?茉璃ちゃんのためを思って言ってくれてるの。だって趣味があるってとっても素敵なことだもの。」

そういって優しく笑う。

「でもね〜?」

でも私は知っている。

「世の中には役立つ趣味と、そうじゃない時間の無駄にしかならない趣味があるの。」

この笑顔は、私を思い通りにしたい時に被る仮面だということを。

「ママねー、お絵かきなんかよりももっと茉璃ちゃんに合う趣味があると思うんだけどなー」

嘘にまみれた甘い仮面の下に本性を隠していることを。

「・・・。」

お母さんの笑顔が怖いだなんて。