「それじゃあ、気をつけて帰ってね。」

「うん、バイバイ。」

春樹くんに背を向けて歩き出す。

明日からもう私たちは彼氏彼女じゃなくなる。

春樹くんが駅まで送ってくれることもなくなる。

好きだったよ。

優しい笑顔も、少し低い落ち着いた声も、たまに見せる無邪気な笑い声も、黒くて触ると少しちくちくする髪も、茶色い瞳も、笑うとできるえくぼも、全部、全部。

大好きだったよ。

電車の中で、遅れてこみ上げてきた心の痛みと涙をなんとかおさめようと、窓の外に浮かんでは消えてゆく灯りをぼんやりと眺めながら帰った。