食後のカフェインレスコーヒーをソファで飲みながら、大和は恵真の肩を抱き寄せて話し出す。

「恵真。俺はこの先、恵真と赤ちゃんの為ならなんだってする。恵真が毎日を心穏やかに過ごせるように、赤ちゃんが二人ともすくすく大きくなるように、俺がみんなを守っていく。だから何でも話してね」
「はい」
「それから…。恵真はこれからしばらく自宅待機になる。毎日、好きな事をしてゆっくり過ごして欲しい。でも、もしかしたら気分転換したくなるかもしれない。それに」

そこまで言ってから、大和はうつむいて口をつぐむ。

「大和さん?」
「うん、あの。恵真、もし空が恋しくなったら、その気持ちをちゃんと俺にぶつけて欲しい。決して一人で我慢しないで。俺が全部受け止めるから」

恵真は大和の言葉をじっと考えてから顔を上げる。

「はい、ありがとうございます。今の私は、スイッチが切り替わったみたいに、赤ちゃんのことで頭がいっぱいです。この子達をしっかり守って育てるのが、今の私の仕事です。でも…」

言い淀む恵真を、大和が優しく抱きしめる。

「どうなるか、自分でもまだ分かりません。ずっとずっと空を飛ぶことばかり考えてきて、頭の中は飛行機のことばかりだった私が、この先何年か飛べない。それってやっぱり、不安で…」

大和は恵真の頭を抱き寄せて、何度もなでる。

「もしかしたら、空が恋しくて、飛行機が恋しくて、飛びたくてたまらなくなってしまうかも…」
「うん」
「赤ちゃんのことを第一に考えていても、やっぱりどうしても頭の片隅に考えてしまうかも…。飛びたいって、そう思ってしまう時が来るかも」
「うん」

涙を堪える恵真に、大和は優しく笑いかける。

「そう思うのが当然だよ。だって恵真は、優秀なパイロットなんだから。それに赤ちゃん達も、きっと恵真を誇りに思ってくれる。僕のママは凄いんだぞ!って。あ、いや、私のママか?」

真顔で呟く大和に、思わず恵真はふふっと笑う。

「とにかく!恵真は凄いママなんだ。だから空が恋しくなっても、決してそれを悪い事だと思わないで。自分を責めたりしないで。飛びたいなーって思ったら、我慢せずに口に出して。俺も、赤ちゃん達も、その度に恵真を誇りに思うよ。そして全力でサポートする。必ずまた、恵真が空を飛べるように」
「また、空を飛べる…?」

ポツリと恵真が呟く。

「ああ、必ず飛べる。空飛ぶ双子ちゃんママの誕生だ!楽しみだな」

大和の笑みに、恵真の心が軽く、そして明るくなる。

「はい!必ずまたいつか、空を飛びたいです!」
「よし、また一緒に飛ぼう!その時には、俺達の双子をキャビンに乗せてな」
「わあ…なんて素敵!」
「だろ?楽しみだな」
「はい!」

恵真はキラキラと目を輝かせて頷く。

大和はそんな恵真に優しく笑いかけてから、そっと抱き寄せてキスをした。