そしてSNS用のインタビューも二人で受けた。

会議室で向かい合って座り、川原の質問に答える様子を動画で撮影する。

「えー、パイロットの佐倉夫妻にインタビューするのは、かなり久しぶりですね。副操縦士の恵真さん、近況を教えてもらえますか?」
「はい。実は子どもを出産して、しばらく乗務から離れていました。復帰訓練を経て先月復帰したところです」
「おめでとうございます!以前、女性パイロットにとって、妊娠出産はハンデになるか?というお話をしましたね。どうですか?実際に経験してみて」

そうですね…と、恵真は少し言葉を選ぶ。

「やはりハンデだとは思いません。確かに妊娠が分かってから乗務停止となり、結果として3年以上のブランクとなりました。ですが、子どもが産まれた喜びは大きく、一人の人間としても親としても、成長出来たのではないかと思います。そして、子ども達に飛行機の魅力を伝えたいという想いも、一層強くなりました。また復帰訓練では初心に返って、空を飛べる喜びと素晴らしさを改めて感じる事も出来ました。一度お休みした期間は、私にとっては有意義だったと思います」

川原は頷きながら聞いている。

「なるほど。他の女性パイロットにとっても、恵真さんの言葉は大きな励みになると思います。出産や育児は、夫婦でどのようにされてきたのでしょうか?」
「はい。会社の制度がとても充実していたので、有り難く利用させて頂きました。妊娠中は、地上勤務で広報課のお仕事を手伝わせて頂きましたし、主人も産休を1ヶ月取り、産後は乗務を半分に減らしてもらったりと、随分助かりました」
「会社のバックアップ体制としては、充分だったと思いますか?」
「はい、とても」

恵真は、同意を求めるように隣の大和に顔を向ける。

「そうですね。私もとても会社の制度に助けられました。そのおかげで妻の出産にも立ち会えましたし、産後1ヶ月は、自宅でゆっくりと家族で過ごせました。短日数乗務の制度もとても有り難く、産前と産後に、7割や5割など、その時の希望でシフトを調整してもらい、ステイの免除などの希望も聞いてもらえました。会社には本当に感謝しています」

川原は、にっこりと笑う。

「それは良かったです。これから結婚や出産を控えているパイロット達に、お二人は道筋を示してくださったような気がします。そうそう、恵真さんは妊娠中、私と一緒にSNSの記事も書いてくれましたよね。皆様、実は恵真さんが、ご主人の佐倉キャプテンの記事を載せた事もあるんですよ」

カメラ目線で暴露する川原に、恵真は真っ赤になる。

「ふふふ、皆様どの記事か覚えていらっしゃるでしょうか?随分前になりますよね。3年前、でしたか?」
「は、はい」

恵真はまだ赤い顔のまま頷く。

「その時の記事に、皆様からたくさんのコメントを頂きました。ハネムーンフライト、またやって欲しいというお言葉や、フルムーンフライトや、お子様のフライトデビューも企画してもらいたい、という貴重なアイデアも頂きました。そして!ここでいきなり重大発表なのですが。皆様、お子様のフライトデビューの企画、実現致します!その名も『応援します!お子様のフライトデビュー』」

パチパチパチパチーと、三人で拍手する。

「えー、日程は12月15日。羽田発ホノルル行きの便です。お子様が初めてのフライトですと申告して頂くと、様々なグッズをプレゼント致します。もちろん、操縦は佐倉キャプテンと恵真副操縦士の夫婦パイロット。お二人のサイン入り搭乗証明書も、もちろんプレゼント致しますよー」

恵真と大和は、若干苦笑いになる。

「では、実生活でもお母さんである恵真さんから、何かメッセージをお願いします」
「はい。お子様が初めて飛行機に乗るという、大切な経験のお手伝いをさせて頂く事を大変光栄に思います。私達の操縦する機種は、最新の技術によって設計されていて、客室内も静かです。また、機内の気圧が高めになっているので、耳がツンとなりにくいですし、加湿機能もあるので乾燥で咳き込む事もあまりないと思います。お肌にも優しいですし、お子様にも安心して乗って頂けると思います」
「それはママにとっても良い情報ですね。では最後に佐倉キャプテンから、一言お願いします」
「はい。初めて飛行機に乗った時の事を、私は今でも覚えています。たくさんのお子様達にも、ワクワクする気持ち、空を飛ぶ感動、様々な思いを共有してもらえたら嬉しいです。ご家族皆様にとっての大切な日になりますよう、精一杯心を込めて乗務致します。皆様のご搭乗、心よりお待ちしております」

恵真は大和と二人で頭を下げる。

「素敵なフライトになりそうですね。ご予約は、ホームページでも受け付け中です。どうぞ皆様、お早めにご予約ください。佐倉キャプテン、恵真副操縦士、本日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
「それでは、また」

三人でカメラに手を振って、撮影は終了した。