なんでなの……?
なんで、私が一度でも欲しかった言葉を、識くんが言うの……っ。

流歌ちゃん以外の誰も本当の私なんて見てくれなかった。
噂での私が、周りの人達にとっては全てだった。

だからこそ……その言葉がどれだけ嬉しいか。


「……ありがとう」

「え?」


その嬉しさを表現するように、ふわっと笑ってお礼を言う。

キスされたことは忘れてない。
でも……それとこれとは別だ。助けてくれたし、私自身を見ようとしてくれている。
私にとっては、数少ない唯一の人。


「……かわい」

「へ?」

「雪音ってほんとに……めっちゃ可愛いね」

「……っ」


私のことをじっと見つめたあと。
真剣な顔をしてそう言ってくる識くんに、動揺する。
きゅ、急に、なにを……っ。
そんな私の反応にニヤリと笑って。


「照れると涙目になっちゃうんだ?」

「…っ、ちが、」

「あー……女の子を泣かせたいって思ったの、初めてかも」


───私の目の前で意地悪そうに笑った、月居識というこの男。
……っ、やっぱり無理……っ!

この男、かなりキケンです。