𓆩⋆𓆪‬



「っ、はあ、は、」



肩で息をしていた。

まだ梅雨だというのに、ジメジメした湿気に加えて異常な暑さのせいもあったのかもしれない。


額から汗は滴り落ちて、まって、と心の中で広い背中に叫んでいる。


まって、まだ、行かないで。


そんな願いが通じたのか、閉じられようとした隙間に寸前で体を滑り込ませられた。



「うわあっ?!か、花穂さん?」

「ま、まって、くだ、さい……っ、はあ、」

「…………遅刻ぎりぎりなんですけど」

「す、すみません……」



閉めようとしたドアから滑り込んできたわたしを見下ろすのは、昨日ぶりの都裄くんだった。

ちなみに、その目はひどく呆れている。



「よりによって風紀検査がある日に遅れてくる?」

「ちょっと、家出る時に、一悶着あって……」

「………何かあったの?」

「小雨で傘を持っていくか否かでわたしの中でちょっとした議論に……」

「すげえどうでもいい内容だった」