「……にしても、通いすぎじゃない? あの子たち」

喋っているときに聞こえていた、ユノを呼ぶ女の子たちの声。

わたしは窓の外を眺めるふりをして、再び、手鏡で後ろを見る。

「逆に目立つから普通に見なよ」

呆れた口調のしずちゃんも、廊下側に目を向けた。

鮎川と一緒にいたはず彼は、教室を出て別クラスの女子たちと話している。

「あの子たち、休憩ごとに来るよね。痩せてツインテールが来なくなったと思えば……」

鏡越しで見つめる横顔。

笑顔を向ける相手が自分じゃないことに嫉妬してしまう。

奥歯を噛んでこらえていると、そんなわたしを静かに眺めていたしずちゃんが口を開いた。

「ユノくん、乗田ひかるにはちゃんと断ってるらしいよ」

「ん?」

「“痩せたから”じゃなく、ユノくんにきっぱりと勧誘を断られて、“教室にももう来ないでください”って言われてるから、来なくなったんだと思う」

「え……?」

唐突な話にすぐうなずけないわたし。

きょとんとしてしまうと、しずちゃんは「鮎川から聞いたんだ」と言葉を付け足した。

「果歩さ、ユノくんに“乗田ひかるが苦手だ”って言ったんでしょ?」

「……ああ、ハロウィンのとき?」

確かに言った。

ツインテールから逃げる必要はないんじゃないかって考えにイライラして、文句を言って……。

「断りに行ったのはハロウィンの後だったはず……ユノくん、あんたの気持ちを考えてその行動に出たんじゃない?」

しずちゃんの言葉を聞いてから思い出したのは、文化祭の日。

“前にも言ったけど、ボクが、好きなのは……彼女”

わたしと鮎川の話を立ち聞きしていたユノは、「英語で話すことが不満」という言葉をそのまま受け取って、次にエイミーと話すとき日本語で喋っていた。

「本当、大切なんだね……果歩のことが」

「……」

ユノは、いつもわたしのことをいちばんに考えてくれる。

怪我をしていても自分を後回しにするし……。

「わたしも……ヤキモチばかりやいているようじゃダメだね」

今の自分はそんな彼に釣り合うのだろうか。

そう考えてこれまでを振り返ると、もっと自分を磨いたほうがいいような気がしてきた。

ろくでもなかった自分を思い出し、苦笑いを浮かべてため息をつく。

とその瞬間、なぜか急に廊下が騒がしくなった。

しずちゃんと顔を見合わせていると、教室を出ていたはずのマミちゃんが慌てて戻ってくる。

「大変だよ! ユノっちが大変!」

叫ばれて、思わず席を立つわたし。

しずちゃんも同じように立ち上がり、わたしたちは再び教室を出たマミちゃんの後を追う。