「……果歩ちゃんはあの3年に見つかりたかった?」

「え? なんで先輩の話? わたしは相撲部のことを言ってるんだよ?」

返事がズレていて首を傾げてしまう。

「……あのツインテールの人、ユノに着させる衣装とか持ってた」

「え、ホント?」

「うん。あのまま会ってたら、きっと“これを着て!”って言われてると思う」
そして、そのまま一緒に行動することになり……わたしはまた、ツインテールと話すユノにイライラしていたはずだ。

「んー、でも……オレはもうこの格好だし……」

「そこ?」

わたしは衣装うんぬんで言っているわけじゃないよ。

「……学校以外で会う必要ある?」

なんでわからないの……?

「彼女の目的は相撲部に入部させることでしょ? ……そんなの学校ですればいい話だし」

「んー。でもオレ、その話はもう断ってるよ?」

「……」

“なら、もう関係ない人じゃん”

そう言いかけて、やめた。

やめたけど、イライラが募ってく。

「果歩ちゃんは……ピカルン先輩が苦手?」

「……」

そっぽを向いたままのわたしにそんな質問。

今までそのことに気付いてなかったユノを鈍感に思った。

「苦手だね。……好きでもない人に気を持たせるようなことするし」

「“気を持たせるようなこと”?」
「……ユノにもしたでしょ、間接キス」

相撲部の連中はみんな、彼女に夢中だ。

きっと、ユノにやったようなことを、全員にしているんだと思う。

「“間接キス”?」

ユノは“何のこと?”というかのように首を傾げた。

「されてたじゃん。2学期の初めに、“おまじないだ”とか言われて……ペンの先で」

された本人はもう忘れているのかもしれないけれど、わたしはちゃんと覚えている。

ユノは宙を見て、しばらくしてから思い出したと言うかのように「ああ」とつぶやく。

「あれは……」

「間接キスでしょ」

言い訳されたくないから、すぐに声をさえぎる。

でも言った瞬間、そのことまで掘り返した自分に後悔した。

「この話はもういいよ……はい」

持ったままのポケットティッシュを差し出す。

きょとんとしているから、ひと言で「顔」とだけ言って、その手に持たせた。

ユノも階段に腰を下ろし、目の周りを拭きはじめる。