「連れて来る、連れて来るって、一体いつになったら連れて来るんだよ」
「……そのうちな」

五十嵐がシンガポール便のフライトで不在の日。
仕事帰りに祥平の店に立ち寄った。

「っつーかさ、ちゃんと言ったのか?お前のことだから、絶対はぐらかしてるだろ」
「……」
「あー、その顔だと、ビンゴだな」

顔色一つ変えずにいるはずなのに、それが逆に悟られたのか。

「いい歳して、マジでダサっ」
「うっせーな、仕事しろ」
「店長、二番にレッドアイとサンライズです」
「おぅ」

いつもの定位置、カウンターの端でフラーズビールを口にする。
そんな俺の前で手際よくカクテルを作る祥平。
黙ってれば、カッコいいのに。

「そんな目で見ても、俺は落ちねーぞ」
「……フッ」

出来上がったカクテルをバイトの子に渡し、下げて来たグラスを洗い始める祥平に声をかける。

「祥平が結婚を決意した理由って、何?」
「おっ、何なに~?結婚したくなった??」
「……どうだろ。……したいのかも」
「マジかっ!」

祥平は去年三つ年下の子と結婚した。
彼女の一目惚れらしく、三年近くこの店に通って口説き落としたらしい。

客には手を出さない主義だった祥平が、一途な彼女に根負けしたらしく。
女百人斬りだなんてバイトの子達が言うくらい、祥平の女癖は結構なものだったのに。
客には一切手を出さないというところがカッコよくもあった。

まぁ俺から見ても、奥さんは美人でスタイルもよく、祥平には勿体ないくらいだと思う。

「一言で言ったら、不安になれるから、かな」
「は?」