「朔也さんの仕事、落ち着いたの?」
「うん、だいぶね。付きっきりだった新人二人がこの四月から独り立ちして、今は部長補佐してるよ」
「相変わらず、やり手だね~」

公休日の今日は千奈が来るということもあって、朝からケーキを焼いて楽しみにしていた。

「隆と佑人は式に来るの?」
「……と思うけど?」
「そっか」
「佑人と会いづらい?」
「ううん、大丈夫」

体調不良で長期離脱する社員の代わりに急な海外赴任になった佑人。
先生から教職を辞めると聞いたあの日、佑人から出国日の連絡メールが来た。
それから二週間後。
佑人はニューヨーク本社へと転勤するため、その見送りに千奈と隆と行った。

簡素なメールは何度か来ているが、昔ほどフランクなやり取りは減った気がする。

当たり前なのかもしれない。
彼のプロポーズを断ったのだから。

隆も千奈を吹っ切るために、仕事に専念しているみたいで。
最近は飲みに誘ってもほぼ断られている。

千奈も二週間後には人妻になる。
少しずつ私達も変化してゆく時なのかもしれない。

千奈と他愛ない会話をする。
結婚しても今住んでいるマンションから引っ越すわけじゃないから、会おうと思えばいつでも会えるんだけど。
気持ち的に少し遠慮した方がいいのかな?とか思ってしまう。

「そう言えばさ、先生の家の鍵はまだ持ってるんでしょ?」
「うん、持ってるよ」
「じゃあ先生いなくても、寂しいなら行ってくればいいじゃん」
「え?」
「先生の家の匂いとかさ、嗅ぎたくならない?」
「ッ?!!」