龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


ぶわり、とすさまじい突風が下から吹いてきた。
息をすることすら難しい風圧の中で見たものは、降ってきた大岩が次々と粉々に砕け散る光景。まるでわたしの頭上に硬いものがあるように。

やがて、落石がなかったかのようにすべて砂になり崖から下へ落ちていった。

ほうっと安堵の息を吐いた次の瞬間、ものすごい怒声が響いた。

「この、おバカ!アタシに内緒でなにをするかと思えば…!こんな危ないことを勝手にするんじゃないよ!!」

おばあさまが仁王立ちの格好ですぐそばに浮いてる。さすがに外だから魔術で体にフィットした疑似服を身に着けていて、全裸でないからほっとした。

「ごめんなさい。でも、どうしてもアンブローズがほしくて……」
「崖の上に咲いてるあれかい」

クイッとおばあさまが顎で示した先に、アンブローズは咲いてた。白く淡く輝く貴重な花が2輪、確かに咲いてる。

「そう。いろんな文献で調べて見つけたの。おばあさま、助けてくれてありがとう。でも、もう少しだから自分で採るね。よっ!」

わずかに突き出した岩を掴むと、慎重に足場を確認しながら自分の身体を引き上げる。崖登りは得意じゃないけど、自分で決めたなら自分の力で成し遂げないと。

ゆっくり、ゆっくり。でも、確実に。花が咲いてる短い時間で登り詰めねば。

「……やったあ!きゃっ!!」

アンブローズを手にした瞬間、気が抜けて足を滑らせて落下しかけたけど。おばあさまにまた助けられ、そのままお説教コースに入ったけど。後悔はしなかった。