龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


ふわり、といい香りが鼻をくすぐる。

頭になにか触れた気がして、意識が浮き上がる。

唇に柔らかさを感じてまぶたを開けば、すぐそばにヴァイスさんの微笑みがあった。

「おはようございます、アリシア」
「あ……」

ぱっと起きると、慌てて謝った。

「すみません!つい眠ってしまいました」
「いえ、疲れていたのでしょう。普段からあなたは働きすぎですから、無理もないことです」

穏やかな笑みでそう言われても、申し訳無さすぎです。

ヴァイスさんが紙袋から一足の靴を床に置き、治療用の道具をテーブルに並べた。

「アリシア、足が痛いのでしょう?この靴に履き替えてください」

ヴァイスさんが買ってきた靴は、かかとがオープンになったサンダルタイプ。驚いて思わず「知っていたんですか?」と訊き返してしまった。痛みは上手く誤魔化したつもりだったのに。

「……普段からよく見ていれば、わかりますよ」
「そういう思わせぶりなことは、あたしに言わないでください」
「なぜですか?私は思ったことを素直に口にしているだけです」

無意識だからこそたちが悪い……この女たらしの王子様は。

「足を、治療していいですか?」
「自分でやりますから」

さすがにここは、自分で治療すべきだろう。子どもじゃないんだし……と思うのに、ヴァイスさんは許してくれなかった。

「私にやらせてください。あなたの足を他人に晒したくはありませんので」
「はあ…」