(デルフィーン…あ!)
ヴァイス・フォン・デルフィーン。
ヴァイスさんの……名字だ。
王子殿下である彼の名前なのだから、それは王家の名前ということ。
ということは、目の前の女性は王族。
慌ててその場で膝を着き、頭を下げた。
「失礼いたしました!まさかこのような場で夜分にお会いするとは思いませんでしたので」
あたしが非礼をお詫びすると、メローネさんはふふっと笑ってゆるくしゃがむ。
「頭をあげてくださいな。いいのですよ。わたくしも警護の目を盗んで忍び歩きしているのですから。ここでお会いしたこと、あったことはお互い内緒にいたしましょう」
ね?と唇に人差し指を当てて、ナイショですわよ?と微笑んだメローネさんは、子どもみたいに無邪気で微笑ましい。
「キルシェも、ちゃんとナイショにできるものね?」
母であるメローネさんがしゃがんだまま娘に訊くと、キルシェちゃんは勢いよく頷いた。
「キルシェ、ちゃんとお口にボタンかけられるよ!しいっ!だもんね」
母親の真似か、キルシェちゃんも口に人差し指を当ててニコッと笑う。幼い仕草に、ズギュンと胸が射抜かれた。
(か、かわいい……!子どもってあんまり会ったことないけど、こんなにちっちゃくてもちゃんと大人の真似を一生懸命するんだ…可愛すぎる)



