龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


ぞくり、と背筋に寒気を感じた。

(なに、今の…!?)

咄嗟に身構えて辺りを見回すと、ドアがさらに開いて幼子とともに女性が現れた。

ふんわりしたシルエットの薄水色のドレスを身にまとい、流れるようなブロンドは結わずに背中に流し、春に相応しい花をモチーフにした髪飾りとペンダント。海を思わせる深い青色の瞳は憂いを帯び、薄いピンク色のふっくらした唇。全体的に華奢で、儚げな雰囲気を纏った20歳くらいの美女だった。

(誰だろう…?ヴァイスさんのいた部屋から出てきたけれど…)

気にはなるけれども、ひとまず今はヴァイスさんのお見舞いがてら様子を見に行かないと。
とりあえず失礼にならないように、女性と子どもさんには足を止めて会釈をしたのだけれども。

なぜか女性はあたしの目の前で足を止めて、話しかけてきた。

「……もしかして…アリシアさん、ですか?」

まるで歌うかのような澄んだ美しい声は、しみじみ聴き入りたい思いにかられるほどだ。

「あ、はい。あたしはアリシア。アリシア・ブルームです。ヴァイスさんに紹介されたおかげで、竜騎士候補生として学ばせていただいてます」

名前がバレたなら潔く名乗るのが最善だと判断し、自ら自己紹介をした。

「まぁ、やはり。ヴァイスから噂は聴いていますの。あ、申し遅れましたが、わたくしはメローネ・フォン・デルフィーン。この子は娘のキルシェですわ」

女性…メローネさんから自己紹介されて、はて?と頭の中で考える。デルフィーン?どこかで聴いたことがある名前だけど…?