龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


「アリシアくん、だったね?」

訓練場から出ようとすると、なぜだかバルド卿に呼び止められた。

「あ、はい。なにかご用ですか?」

あたしが身体を向き直して直立不動の姿勢をとると、彼はゴホン、と咳ばらいをして「そんなに固くならなくていい。私用だ」と言うから、体から力を抜いた。

(バルド卿があたしに私用?なんだろう)

彼とはこの学校に入ってすぐ、訓練で初めて顔合わせしたくらいだけど。

「今日の訓練ではきみの活躍で大した怪我人は出なかった。お礼を言いたい…と同時に、私たちの監督不行き届きで、候補生に危険を晒してしまったことをお詫びしたい」

軽くだけどバルド卿に頭を下げられ、とんでもないとあたしは慌てて首を横に振った。

「いえ!今日は何人も教官が休まれていましたし…それに、ヤークの扱いは各個人の責任です。いざ、危険な目に遭えば、自分だけでなんとかしなければいけない場面は多い。その点、今日はみんなにいい経験になったかと思います。危険は早めに慣れていくに越したことはありませんから」

おばあさまのモットーは“かわいい子には旅をさせよ”“獅子は子どもを千尋の谷に落とす”だ。
あたしは幼い頃からおばあさまにとんでもない状況で修練させられてきた。

3つの頃から数十キロ離れた森に身一つで置き去りにされ、自力で帰ってこいよ!なんてやらされてたからなあ。