それでも、ハワードは震えながら突っかかってきた。
「へ、へん!ボクにかなわないからって暴力沙汰なんて野蛮な…さすが田舎娘だな!」
(だめだこれは…つける薬がないわ)
またスルーしようと踵を返すと、ハワードが追いすがってきた。
「待てよ!ボクを無視するなんて許さないぞ!!」
肩を掴んできたから、今度こそ投げ飛ばしてやろうかと睨みつけていると、意外な声が聴こえてきた。
「オズボーンさん、みっともない真似はおやめなさい!」
オズボーンはハワードの名字だ。そんな呼び方をするのは、限られた人しかいない。
驚いたハワードが振り返ると、ムチを持ったままのリリアナさんがそこに立っていた。彼女は眉を寄せ、少し怒った様子でハワードに言葉を続ける。
「あなたに貴族としての矜持、竜騎士となる志(こころざし)があるならば、そのような子どもじみた嫌がらせはおやめなさい。貴族たる者、民へ手本となる行いをすべきではありませんの?」
声音や口調は冷静ではあったものの、リリアナさんにとってハワードの行動は癇に障るものであったらしい。かなり怒りの圧を感じた。
ハワードは伯爵家令息、リリアナさんは階級が上の侯爵家令嬢。権威に弱いハワードにとり、これは逃れようのない一撃。
「は、はい…申し訳ありません。そのとおりです」
ギリギリと歯を食いしばりながらも、ハワードは弱々しくそう答えていた。



