「よいしょっ…と、ふう。これでいいかな?」
「ギイイイ」
「あ、ごめんごめん。もう少し厚みがあった方がいいか」

抗議の鳴き声で、巣にする藁をもう少し積み上げておいた。今は繁殖期だから忙しい。
わたしの目の前で文句を言った(?)のは、人よりやや大きいくらいの小型のドラゴンであるヤーク。ドラゴンとはいえ翼があるタイプではなく、走ることに特化した草食型。
竜騎兵の騎竜にもなる、大人しく従順な性格だ。

わたしとおばあさまが住むこの土地は、ノプット王国の外れの辺境の地だ。
ノプットはかなり北に位置する国ではあるけれども、活発な火山活動による熱と暖流のおかげでわりと暖かな気候。属するスカナビア大陸がまるごとノプット王国の領土で、平和な国なんだ。
辺境の地の大森林地帯は太古からの自然が残されていて、他国では幻獣扱いされる動物が多数生息しているのも珍しくない。

特に、ドラゴンはポピュラーな生物だ。
今は馬や牛に取って代わられたけれども、昔はドラゴンを移動手段や耕作や荷物運搬役にしていたこともあった。

ただ、軍事だけは別。

二本足のドラゴンを騎竜にする竜騎兵、翼がある空飛ぶドラゴンを騎竜にする竜騎士、さらにその上に位置する龍騎士。それが、ノプット王国を護る最強の竜騎士団。

ノプット王国の元になる国を興したバフィーク人によるバフィーク神話では、神の使いのドラゴンがこの世界を造り上げたというエピソードがあるほど、昔からドラゴンとともに生きてきた。

バフィーク人は外海より侵入してきたタクル人により駆逐されたけれども、ドラゴンを重んじる伝統は変わらない。今も王国を護る古代竜は各地にいて、さらに最高位の神竜が首都近くの古の森に鎮座ましているんだ。