「ほら、キルシェ。降りなさい!バーミリオンは今から用事があるんだから」

甘やかすのはだめだ、と心を鬼にして注意する。
むうっと膨れたキルシェは…かわいいけど、ほだされないぞ!うん。

キルシェがようやく背中から降りると、バーミリオンがかかないのに汗を拭うふりをする。

《ひー…助かったぜ!早く荷物を運ばなきゃならんからな》
「ごめん、バーミリオン。後でウゴルあげるからさ」
《え、マジ!?やったー!それじゃはりきっちゃうぜ!ウゴル、ウゴル!》

単純なバーミリオンは鼻歌を歌いながら翼を羽ばたかせ、上昇する。それを羨ましそうに見ていたキルシェは、いきなりあたしに抱きついてきた。

「どーん!お母様、だっこして!」
「……ぐっ」

キルシェが軽くぶつかった途端、みぞおちの辺りがギュッとしぼられたような…突き上げるような衝動を感じた。

(……急になに、これ?気持ち悪い……)

「お母様?」
「ああ、うん……抱っこね」

屈んで抱き上げようとすると、キルシェがいきなりふわりと浮く。それもそのはずで、いつの間にか帰ってきたヴァイスが娘を抱き上げたんだ。

「お父様、おかえりなさい!」
「ただいま、キルシェ」

そう挨拶したヴァイスはキルシェの頬にキスをする。義理の娘とはいえキルシェをきちんと愛していて、父親役をちゃんと務めていた。


「アリシア」
「ん」

お帰りのキス、も今では当たり前になった。恥ずかしさはいつまでもあるけど。

「アリシア、顔色がすぐれませんが…体調でも悪いのですか?休んではどうでしょう」

ヴァイスさんがそう提案すると、後ろから侍女のメグの声が聴こえてきた。

「そうですよ!アリシア様、明日はあなた様が主役なんですから、もう休まれてください」

仁王立ちしてにっこり笑ったメグは、誰よりも怖い笑顔を浮かべてた。