龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


「兄上、ご無沙汰しております」

ヴァイスさんが臣下としての敬礼をするから、あたしたちも慌ててそれに倣う。

アンテルム王太子殿下は軽く手を挙げられ、「皆、頭を上げて。ぼくに頭を下げる必要はないよ」とおっしゃられた。

「ですが、それでは他の者に示しがつきませんわ」

侯爵令嬢であるリリアナさんがそう言うと、王太子殿下は驚く発言をされた。

「ぼくは、王太子を廃されるから」
「えっ!?」

王太子殿下の衝撃的な発言の内容はヴァイスさんも知らなかったのか、珍しく目を見開いている。

「兄上……それは…」
「ああ、誰のせいでもない。これはぼく自ら母上である女王陛下に申し出たことだ」
「なぜですか?兄上は将来国王になるべく、あれだけ努力されていたではないですか…!」

やっぱり納得がいかなかったヴァイスさんが、兄を問い詰める。アンテルム殿下は苦笑いを浮かべて指折り数え始めた。

「メローネは王太子妃でありながら、龍騎士および騎竜毒殺容疑、および騎竜への毒物混入による戦力の弱体化による国家転覆罪、バイキングへの情報漏洩および攻撃幇助。自らの娘への虐待…不貞行為…以上の罪を犯した。どのような理由があろうと、国家の危機を引き起したことは事実であり、情状酌量の余地はない」

アンテルム殿下の挙げられたメローネさんの罪は、驚くべきものだった。

辺境の地でヴァイスさんが毒殺されかかった事件の犯人が、メローネさんだったなんて。
だから、ヴァイスさんは事件についていくら訊いてもはぐらかして答えてくれなかったんだ。幼なじみが犯人だなんて、答えにくいに決まってる。
ましてや、メローネさんとは親しく付き合っていたんだから。