龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?



3日目の朝。あたしは断崖絶壁を登ってた。

「はぁ、やっぱりキツいなあ……」

バブルル火山は標高こそ低いけど、なぜか岩肌が垂直に近い切り立った崖のような岩場ばかり。
だから人間が登れず、逆にドラゴンたちの絶好の棲み家なんだよね。
同級生達が敬遠した理由もここにある。
登れど登れど、まったく山頂が見えてこない。
休憩したくても足場もないし、気を抜けば一気に滑落してしまう。

「はぁ……ふう、ちょっと休憩」

ようやく少しだけ窪んだ場所を見つけ出し、足先を突っ込んで体重をかける。片手で僅かなくぼみを掴み、もう片手で腰に下げた水筒を開けて水分補給をした。

朝から何時間登ってきただろう。
すでに眼下の森は緑の絨毯のようだし、落ちたら無事ではいられない高さまで来てる。

ふと見上げれば、白いドラゴンが飛翔してるけど……?

「あれ?もしかしてあの飛び方……イッツアーリ?」

かなりの高さを飛んでいたから断言はできないけど、羽ばたき方がイッツアーリそっくりだった気がする。

(まさかね……イッツアーリはまだクロップス卿の騎竜……こんな場所に来るはずないよね。ましてや、今は臥龍の儀の最中なんだから)

基本的に騎竜となったドラゴンは古の森に近づかない。契約した相棒以外に捕まることを警戒するからだ。ましてや、ドラゴンを選び選ばれる臥龍の儀の最中は最も近づかない期間だ。

(リリアナさんもイッツアーリに負けないバハムートが見つかるといいね。ううん…彼女だけじゃない。みんなドラゴンを見つけて契約し…竜騎士になるんだ!みんなが頑張ってる。なら、あたしも負けられない。)

少しだけ休んだあたしは、気合いを入れ直し登坂を再開した。