龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


朝からずっと空には黒い雲が垂れ込めていたけど、やっぱり途中から雨が降り出した。

「あちゃー…ヤーク、こっちで休もうか」
「クェ」

8月の濃い緑のなか、雨でけぶる景色は見応えがあるけど、ヤークの身体を濡らすわけにはいかない。
適当な洞を見つけてその中に入った。

「うん、有毒なガスは噴いてないね…今日はここで野営しようかな」

洞の中で焚き火をすると中毒になるから、一度濡れた服や装備を脱いで岩に広げ乾かす。
途中で摘んだ果物と草をヤークにあげて、自分自身は用意しておいたショートブレットを口にした。

(結構降るな……)

やみくもに動いても体力を消耗するだけだし、迷う危険性がある。特に日が暮れつつある今は夜行性動物の狩り場になる。無益な殺生はしたくないから、とにかく今は休んで体力を回復しないと。

飲み水確保のため、革の袋を広げて雨水を貯める。近くに川や水源はなかったから、飲み水確保も重要だ。まぁ、いざという非常時は土を掘ったり木を斬れば最低限の飲水は取れるけどね。

「えーと…」

手描きの地図を広げて現在位置を確認する。

1日目が終わる今、あたしがいるのは古の森の入口からおよそ10kmほど入った東部区域。このままっすぐいけば裾野が広がる丘陵地。
そこを登っていけば、かつて何度か噴火したことがあるという、標高1000mほどのバブルル火山がある。

(バーミリオンは十中八九ここにいる!ファイアドラゴンの親も火山にいた。だから、子どものバーミリオンも火山が好きなはずだ)

それは、確信に近いものだった。

その時。

《……》

誰かに呼ばれた気がした。
周りを見渡しても、誰もいない。

(気のせいか…)