龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


「リリアナさん、おはよう」
「あら、アリシアさん。ごきげんよう」

リリアナさんはすっきりした顔で調子も良さそうだ。
髪を結い上げた彼女は長袖シャツと長いズボンの上にレザーアーマーを身につけている。8月で暑いけど、森に入る以上肌を守らねばならない。靴は厚手の皮のショートブーツ。腰に下げた武器はショートボウ。
リリアナさんの得意武器がそれと判明したから、ここ1ヶ月はあたしが特訓した結果、彼女はかなりの腕前まで上達した。

「クロップス卿は今日は…?」
「今朝は馬に乗れましたわ。ずいぶん調子も良さそうでしたわね」
「わぁ、よかった…」

クロップス卿は順調に回復してリハビリもこなしてる。
でも……。

「また、お父様のお見舞いにいらしてくださいな。アリシアさんがお越しになればことのほかお喜びになりますもの」
「それならぜひ、また近いうちに伺いますね」
「ええ」

リリアナさんはそれだけ答えると、急に押し黙ってしまう。無理に訊くことではないからそのままでいると、彼女はぽつりとこぼした。

「……お父様が……竜騎士を引退されると…おっしゃられたの……」
「……そっか」
「あのお怪我から助かったのは喜ばしい事ですわ…ですが、わたくしは…お父様こそ龍騎士に相応しいと…幼い頃から信じていました。ですから……悔しいのです。志なかばで夢を諦めねばならないお父様の無念が……わたくしにはよくわかりますから……」

目に涙を浮かべたリリアナさんは、両脇でギュッと拳を握りしめる。

「……ですから…わたくしが、お父様の分まで…龍騎士という夢を、必ず叶えてみせます!」

涙を拭ったリリアナさんは、迷いがないいい目をしていた。