そろそろ女王陛下への謁見が始まる、という時間だった。
「失礼いたします、クロップス侯爵令嬢リリアナ様…こちらを」
「……わたくしに?」
侍従がお盆に載せたメッセージカードをリリアナさんに差し出す。こんな時にメッセージカード…なんだか胸騒ぎがする。
訝しげにグローブ(手袋)を脱いでメッセージカードを手にしたリリアナさんは、すぐにそれを開く。そして、見る間に驚きの表情に変わった。
眉間にシワが寄り、唇を戦慄かせている。顔色もよくなかった。
「……リリアナ様?」
「リリアナさん、大丈夫?一体なにが…」
心配になったあたしたちが声を掛けると、身体を震わせた彼女はこう言う。
「戦いは……ほぼ終わったそうですわ……ただ……」
一度ぐっと唇を噛み締めたリリアナさんは、絞り出すような声で告げた。
「クロップス侯爵……お父様が……意識不明の重体……だそうです」
メッセージカードがリリアナさんの手から離れ、はらりと床に落ちた。
「……!」
身体中から力が抜けたんだろう。リリアナさんはへなへなとその場で座り込んでしまった。
(クロップス卿が……重体なんて……そんな!そんなことって……!)
彼はウゴル混入事件でも偏見を持たずあたしを庇ってくださった、よくできた御方だ。高位貴族にありがちな傲慢さもなく、清廉潔白な竜騎士に相応しいひと。誰もが彼に憧れ慕う。なのに…。



